2012年10月17日水曜日

ヴィンダミア夫人の扇

監督:エルンスト・ルビッチ

ルビッチらしい視線の交錯による誤解と疑心の連鎖。それは映画が始まって早々の競馬場のシーンで見事に凝集されている。この競馬場のシーンだけでひとつの傑作短編映画が成立してる。とてもいいと思った演出が、観衆の中にアーリン夫人がいて、それをカメラが俯瞰で捉えるわけだが、その俯瞰ショットにおいて、人々がアーリン夫人をチラチラと見るっていう演出ね。このように黒帽子で埋め尽くされた群衆において、人々の動きだけで事態を理解させる手際の良さは、たとえばヒッチコックの『海外特派員』にも通じる素晴らしい演出ですね。

上記した視線のサスペンスと疑心の連鎖が、中盤ではやや抑えられるため、ちょっと退屈もするのだが、しかし終盤のアーリン夫人の決断には思わず泣かされるし、何より扉を開けるとアーリン夫人が現れるというフィックスのワンショットが素晴らしい。

また序盤の屋敷の大きな空間と大きな窓から差し込む日光を活かした空間造形が素晴らしい。このようにだだっぴろい空間の中で人間を捉える撮影がたまらなく好きだ(暗殺の森、バリーリンドン)。

ヴィンダミア夫人が、扇を持って「あいつが現れたらこの扇で引っぱたいてやるわ!」と言うシーンもいいね。

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