2012年11月20日火曜日

水の中の八月

監督:石井聡亙

『水の中の八月』というタイトルがすでに泣ける。

飛び込みの撮り方、飛び込み台を中心に仰角の横移動で見せるのは凄いカッコいいんだけど、何回やってんの!とか、途中の飛び込みをMTVみたいに細かく見せるの鬱陶しいとか、中盤の山登りとかもうどうでもええわ!とか、まぁいろいろ文句はつけたいのだが、しかしこれが決定的に泣ける。例えば終盤、葉月泉が川で振り向いて真魚にテレパシーを送るとこ、あれ、テレパシーの内容をオフで流すわけで、んなことやったらアカンやろ、って感じなのだけど、なぜかそのテレパシーが泣けちゃう。あるいは、この振り向いたときの葉月泉が、この映画の中でダントツに可愛い。

決定的に泣けてしまうのは、ふとした瞬間の美しい光景の強度ゆえだろう。
特に好きなのが博多祭りのシーンで、真魚が「この匂い、水が蒸発する匂い、、、」とつぶやくと、画面手前にいる泉が、目を閉じてスーっと息を吸い込むショット。素晴らしい。

あるいは何度か出てくるバイクのシーン。最初は肩に手をおいていただけの泉が、中盤では抱きついて居眠りをしている。でもことさらに勿体つけて見せないんだね。あるいはそこから急速に二人の愛が深まるわけでもなくて、本当に何ともなしに、泉が真魚に背中に寄りかかってるショットを、ほんのちょっとだけ見せるっていう、この慎ましさが良い。

真魚がプールに飛び込んで泉を救出するショットも、まぁこの題材なら当然あるわけだが、でもこの映画はちょっと異質な感覚を帯びてるよね。というのも、その直前、つまり泉が飛び込むシーンで、変な合成映像みたいのブッ込んでくるから、「うお、何この実験映画ライクな演出ww」となって、ちょっと虚を突かれた直後に、この美しいショットが出てくるもんだから、余計に感動しちゃうんだ。

ラストもいいね。最後をこういう風に終わらせるなんて思ってもいなかった。
泉がつけてた日記も、なんか泣ける。
そして幻想の中で泉が老いた真魚を抱きしめるショットが凄く良い。
映画としてはほんのラスト数分のうちに、半ば強引に時間を早送りさせてるのに、このショットただ一つだけで、真魚が生きた年月を感じさせてくれるのだ。そしてその、何と悲しく、儚い人生だろうか。
何かこう、すべてを許してしまいたくなる映画だ。

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