2012年11月23日金曜日

その男、凶暴につき

監督:北野武

どっからどう切り取っても傑作であって、もうイチイチ書く事すら躊躇してしまう程だが、しかし決定的なのはやはり更衣室のシーンだろう。
それまで映画は、武の過剰な暴力を見せつつも、それらは例えば新米の菊池の存在や、あるいはスローモーションなどによって「笑い」へと回収されていた。
だが更衣室のシーンではどうだろう。
まず更衣室の外に立っている菊池の姿をカメラは捉える。そして中からドン!という音が何度も聞こえてくる。しばらくすると、菊池の姿と更衣室の中で白竜が殴られているショットが交互にモンタージュされる。それまで映画を(そしてこのシーンでもまた)「笑い」へと誘っていた菊池と、白竜の殴られるショットのモンタージュ。
そしてシーンはいよいよ更衣室の中へとフォーカスされる。そして決定的なショットが、壁にもたれて座り込んだ白竜とそれを見下ろす武の切り返しショットだ。ここでは、それぞれの「キチガイ」が、交互に真正面からカメラで捉えられる。そしてこのショットを最後に、映画から「笑い」が排除される。

クライマックスの演出の強度は圧倒的だ。武が登場するタイミング、そして扉を開けると光が差込み、白竜と武が縦の構図で捉えられる。こんなことを処女作でやってしまうというのはちょっと信じがたい。

川上麻衣子と武が帰り道に通る河川敷の俯瞰ショットの嘘みたいな叙情性。

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