2012年11月7日水曜日

ジャケット

監督:ジョン・メイブリー

予算の制約が(多分)ある中で、しかもタイム・スリップものでありながら、とにかく地味に、しかしかなり丁寧に演出してある。

あるいはタイムスリップものでありながら、タイムスリップ先の舞台が田舎町であり、しかもせっかくタイムスリップというアクロバットな移動を果たしてみせるエイドリアン・ブロディは、まるでただの放浪者のように、なんともなしに現れ、そして突然何の痕跡もなく消える。この地味さが、映画全体を引き締めているといってもいいかもしれない。


考えてみればこれはクリスマスを舞台にした映画なのだ。しかしどちらの年のクリスマスも、方や1992年は精神病院が舞台だし、2007年は喫茶店がポツンとあるような辺鄙な田舎町に、出てくるのはクリスマス嫌いの独り身のやつれた女だ。重ねてこの地味さを賞賛したい(笑)
ブロディが二回目にタイムスリップしたときに、キーラ・ナイトレイと再会するシーンの、なんて普通なこと(笑)
決して凡庸なのではなく、正しく「普通」である。
ああ、またこの二人が出会った、というごくごくありふれた喜び。



オーソドックスな画面構成でありながら、照明はしっかりしているし、あるいはキーラ・ナイトレイとエイドリアン・ブロディの距離の縮まり方、そして離れ方も素晴らしい。キッチンで酒を注ぐキーラ・ナイトレイがブロディの方を横目で見ながら首を傾ける仕草が、やたらミステリアスで、この時彼女がいったい何を考えているのか全然わからないのだが、それゆえに良いシーンだ。
あるいはキーラ・ナイトレイはタバコが良く似合う。



終盤の実家に行くシーンが少し感傷的と言えば感傷的だが、しかしジーンがドア越しに言葉もなくブロディを見送るショットなんて素晴らしいじゃないか。

ラストはトニー・スコット『デジャヴ』を思わせるラストだけど、もちろん『デジャヴ』のようなあんなエモーションは無いんだけど(※)、バックの夕陽がだんだん画面全体に広がっていく演出は、この映画にしては派手で、そしてその「慎ましい派手さ」ゆえに非常に良いラストになってる。


※それはおそらく、同じタイムスリップものである『デジャヴ』が同時に「人と人が出会うこと」それ自体をテーマにしていたからだろう。『デジャヴ』の有名なスクリーン越しの切り返しのような派手な演出に対し、この映画はそんな事しない。なぜならこの映画における出会いは徹底的に「普通」だからだ。
3回目に二人が出会うシーンのカメラワークなんて素晴らしい。

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