2013年1月1日火曜日

顔のないスパイ

監督:マイケル・ブラント

98分というコンパクトさでありながら、随所に、物語の進行とは微妙にズレた次元で細部を描いてみせる豊かさがある。
例えば少年野球を観戦している母親とリチャード・ギアが客席で話すシーンだったり、あるいはトファー・グレイスの家にリチャード・ギアが招かれての会食、特に玄関先でのギアとオデット・ユーストマンのやりとりがいい。
あるいは序盤に上院議員を監視しているFBIの捜査官が揺らす電球(電球が揺れるというあからさまな記号ではなく、ちゃんと画面造形として決まっている)。

またトファー・グレイスとリチャード・ギアのコンビが様々な重要(時に全く重要でなかったりするw)人物を訪れるにあたって、各パートを見事に描き分け、強烈に印象づけてくれる。

例えば刑務所でカシウスのかつての部下と取引をするシーンでは、リチャード・ギアが逆光によってシルエットになる描写が印象深い。
直後の病院での脅迫シーンも見事な出来栄えだ。

さらにロシア人娼婦の家を訪れるシーンも見事な出来栄えと言って良い。
まず家主らしき女に場所を聞き、二人がそこへ向かうシーンで突然手持ちカメラによる長回しが炸裂する。しかもこの手持ちカメラによる映像も、並んで歩く二人を背後から捉えつつ、前方に洗濯物を捉えてみせる。この洗濯物、というか風は強烈なイメージだ。
さらに言えば直後にリチャード・ギアが娼婦を川岸に追い込んで脅迫する場面も素晴らしい。リチャード・ギアの叫ぶ演技の凄さ、あるいはギアが諦めて彼女を引き上げるときの仰角のショットの強度も凄い。
加えて言えば、ギアが彼女の額に当てていた銃を戻すとき、ジャンプカットが使われている。

ロシア製の服を来ている男を二人で追いかけるシーンでも、3人がほとんど同じぐらいの距離で走るショットの切れ味が良い。

これは相当な傑作でしょう。

0 件のコメント:

コメントを投稿